プロジェクト

科学研究費補助金 基盤研究(S)
アロステリーを利用した新規味覚センサの研究開発

研究の背景・目的
生体系での酵素や受容体などのタンパク質ではアロステリーが数多くの局面で働いている.アロステリーとは,ある部位への化学物質(エフェクター)結合が,離れた別の部位での働き(基質親和性,酵素活性など)を制御すること,また化学物質と受容体の複合体形成が次段の複合体形成を促進・抑制することである.味物質の受容体であるGタンパク質共役型受容体(GPCR)でもアロステリーが働いている.アロステリーの工学的応用も試みられているが,多くはまだ基礎研究の段階に留まっている.
他方,味を測る装置である味覚センサは脂質と可塑剤,高分子(ポリ塩化ビニル)からなる受容部(脂質高分子膜)を有し,既に実用に供されているが,膜電位計測であるため,電荷を有しない味物質(糖類や非荷電苦味物質)の計測は不可能であった.近年では特定の化学構造を有した化学物質を表面修飾することで,糖類(甘味)の計測も可能となりつつあるが,甘味への選択性も低く,かつ応答メカニズムも不明である.現時点で,非荷電苦味物質を計測できない,味物質や味質間の相互作用(相乗効果,抑制効果)の検知ができない,等の欠点を有する.本研究課題は,これら幾つかの克服すべき課題を解決すべく,「日本発,世界初の味を測ることを可能とした味覚センサ」と「分子生物学的アプローチで進められた味覚受容研究」を新たな一つの次元に落とし込むことで,アロステリーを利用することで味覚センサの非連続的かつ飛躍的深化を図る.

図1 味覚センサ 図2 アロステリーを利用した非荷電苦味物質(カフェイン)の測定メカニズム

研究の方法
本研究課題は電気電子工学,味覚生理学,食品機能分析学,臨床製剤学を専門とする4つのグループ(G)から構成される.基礎研究と応用研究開発を互いにフィードバックさせながら,味覚という生物科学的な機能を発揮する新規味覚センサの創出を行う.G1はアロステリーを利用した味覚センサの研究開発を担当し,①非荷電苦味物質の検知,②糖類の検知,③塩味エンハンス効果の検知,④うま味の相乗効果の検知を実現する受容膜を開発する.G2は生体受容メカニズムの味覚センサへの設計・応用を担当し,培養味細胞のカルシウムイメージングと分子シミュレーションを活用することで,アロステリーによる受容体活性メカニズムの解明を行い,味覚センサの味覚受容膜設計の指針を見出す.G3はリガンドとセンサ膜間に働く分子間相互作用の状態解析を担当し,溶液系で非破壊での状態解析が可能な1H-(DOSY)-NMR(磁場勾配型分子拡散分析)法を用い,種々の味物質とセンサ膜との分子間・分子内相互作用の評価を行う.G4はセンサ膜の創薬応用を担当し,臨床で苦味を有する医療用医薬品原末のうち非荷電物質を対象とし,非荷電用苦味センサの開発支援と創薬応用を行う.

期待される成果と意義
本研究はアロステリーを利用した新規味覚センサを研究開発し,味覚センサの非連続かつ飛躍的発展を図るものである.その成果は新規味覚センサの実用化のみならず,アロステリック型センシングデバイスの創出,味覚や嗅覚同様に化学物質への幅広い選択性(広域選択性)を有するバイオセンサ開発,アロステリーと自己組織化に基づく独創科学技術の創出,化学物質の属性で分類・識別・数値化するインテリジェンスの実現,機能性界面を有するソフトマテリアル学の発展,創薬化学・機能性食品学・味覚生理学への貢献,急成長する食品マーケットへの貢献と,多大な波及効果が期待される.

当該研究課題と関連の深い論文・著書

  • X.Wu, Y.Tahara, R.Yatabe and K.Toko, Taste Sensor: Electronic Tongue with Lipid Membranes. Analytical Sciences, 36,147-159 (2020)
  • J. Yoshimatsu, K. Toko, Y. Tahara, M. Ishida, M. Habara, H. Ikezaki, H. Kojima, S. Ikegami, M. Yoshida and T. Uchida: Development of Taste Sensor to Detect Non-Charged Bitter Substances, Sensors, 20, 3455 (2020)

 

アロステリーを利用した新規味覚センサの研究開発

 

 

過去のプロジェクト

味覚・嗅覚・食感イノベーションによる食サービスの創出(未来社会創造事業)

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目的
味、匂い、香り、食感を数値化・可視化し、いつ・どこでも快適と幸せを感じる新たな食サービスを実現!

研究概要
味と匂い、香り、食感を人々の生活の豊かさへ結びつけ、生活の質の向上、ひいてはさらなる安全・安心・快適な社会の実現を目指す。味覚と嗅覚の工学的応用は実社会ではほとんどなされていなかった。
本研究では、高度化した味覚センサと世界初の究極の匂いセンサ(人工嗅覚システム)の開発を行い、食感センサと合わせ、味覚・嗅覚・食感データベースを用いた食の安心と喜びを引き出すお店・食品選択アプリと健康・喜び増進プログラムを開発する。さらに匠の味、秘伝の味、お袋の味を再現、加えて自動調理器の開発を行い、IT社会における新たな食サービスを創出する。

 

味覚センサの高機能化による食品生産ロボットの自動化(NEDO)

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進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム(ImPACT)

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革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

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